
「アルコール依存症で仕事を失ってしまった…」
「お酒のせいで自分はもう二度と働けないのではないか…」
アルコール依存症の方の中には、このような不安を抱いている方も多いのではないでしょうか。
アルコール依存症は、お酒の飲み方を自分でコントロールできなくなる精神疾患の1つであり、あなたの意志の弱さのせいではありません。適切な治療と支援を受けることで、断酒を継続しながら再び社会で活躍することは十分に可能です。
本記事では
- アルコール依存症の特徴と仕事での困りごと
- アルコール依存症の方に適した仕事の選び方
- 社会復帰を支える具体的な就労支援サービス
について詳しく解説します。
そもそもアルコール依存症とは?「意志の弱さ」ではない病気の正体

アルコール依存症と聞くと、世間の一部からは「だらしない」「本人のやる気の問題」といった厳しい言葉を浴びせられることがあります。しかしそれは大きな誤解です。
アルコール依存症とは、お酒の飲み方(量、時間、場所)を自分の意志でコントロールできなくなる、精神疾患の1つです。長期間にわたり大量の飲酒を繰り返した結果、アルコールに対して精神的・身体的な依存をきたしたり、生活そのものが破綻したりすることがあります。性別や年齢を問わず誰でも発症する可能性がある、身近な病気ともいわれています。
この病気には、大きく分けて3つの症状があります。
- 精神依存(飲酒渇望)
状況に関わらずお酒を飲みたいという強い欲求を抑えられず、飲酒が生活の中心になってしまう。 - 身体依存(離脱症状)
お酒が切れると、手の震え、発汗、吐き気、イライラ、不眠などの離脱症状が現れる。重度の場合、幻覚やけいれん発作が起こることも。 - 否認とコントロールの喪失
自分が病気であることを認められない。飲む時間や場所、量を自分の意志で制御できない状態。
これらの症状により、職場で下記のようなトラブルが生じやすくなります。
- 飲酒による遅刻や無断欠勤を繰り返す
- 集中力や記憶力の低下による業務効率の悪化
- 職場内での対人トラブル
- 離脱症状(手の震えなど)によって精密な作業ができなくなる
など
このように、飲酒が生活の中心になってしまうことで、社会生活そのものが破綻し、仕事を失ってしまうケースは少なくありません。
アルコール依存症では働くことはできないのか?

「もう二度と、以前のように働くことはできないのではないか……」
そんな不安を抱えていませんか?アルコール依存症になると、仕事に穴を開けたり、集中力が続かなかったりと、働く自信を失ってしまう場面が多くなる傾向があります。
しかし、アルコール依存症であっても、治療を継続し環境を整えることで働くことは可能です。
一般的に、専門医療機関では以下の段階を経て治療が進められる傾向があります。
導入期
面談を行い、治療への動機づけを行う。病気であることを認識する。
解毒期
断酒の開始。断酒による離脱症状や内臓疾患、合併症(精神疾患)の治療を行う。
(※治療機関や入院の有無は個人の状態により異なります)
リハビリ期
断酒を習慣化。精神療法や酒害教育などのリハビリテーションを行う。自助グループへの参加や、アルコール依存症者の回復施設が紹介される場合も。
規則正しい生活を取り戻していく。
退院後のケア
一生涯断酒を継続する。定期通院や抗酒剤の服用、自助グループへの参加を続ける。
アルコール依存症の方が社会復帰するためのカギは「断酒」と「タイミング」にあります。
治療が一段落すると、本人や家族は焦って早期の復職を望みがちですが、アルコール依存症は再発(再飲酒)のリスクが非常に高い病気です。そのため、慎重に時間をかける必要があります。
まずは規則正しい生活と断酒の習慣を定着させることが最優先です。体力・精神面・生活リズムの3つが安定していることが「働ける状態」の最低条件となります。焦って体調や精神面が不十分なまま仕事を始めてしまうと、そのストレスが再発(再飲酒)の要因になり、さらに自信を失うという悪循環に陥りやすいからです。
まずは「働けるかどうか」の前に「生活をコントロールできているか」を確認する必要があります。
就職活動を検討するタイミングは、断酒の継続期間だけでなく、心身の状態が安定しているかどうかが重要な基準となります。仕事は大きなストレスの原因にもなりやすいため、自己判断で焦って進めず、必ず主治医と相談した上で、慎重に決定しましょう。
参考:入院・通院の治療の流れと治療内容|アルコール依存症治療ナビ
アルコール依存症の方が仕事で抱えやすい3つの困りごと

「働きたい」という気持ちがあっても、いざ仕事を始めようとするとブレーキがかかってしまうことはありませんか?
それは、あなたが怠けているからではなく、アルコール依存症という病気が抱える「特有のハードル」があるからです。どのような場面でつまずきやすいのかをあらかじめ知っておくことは、対策を立てるための第一歩になります。
多くの当事者が直面しやすい、仕事での具体的な困りごとを見ていきましょう。
体調やメンタルの不安定さによる遅刻・欠勤
朝の強い倦怠感や気分の落ち込みによって、決まった時間に安定して出勤し続けることを難しく感じる場面があります。
長年の飲酒による内臓への負荷や自律神経の乱れ、断酒に伴う不眠などの離脱症状が重なることで、朝に体が動かなくなったり、急激な不安感に襲われたりするためです。
また、飲みすぎて欠勤や遅刻を繰り返してしまい、職場での信頼を失う場合もあります。
集中力の低下やミスへの強い罪悪感
以前よりも仕事の効率が落ちたように感じたり、小さなミスを繰り返したりすることで、自分を責めて自信を失ってしまうことがあります。
断酒を始めて間もない時期は、心身のバランスが変化するため、一時的に集中力や記憶力が低下しやすいと言われています。
また、手の震えなどの離脱症状によって、精密な作業や適切な業務遂行が困難になることもあります。
人間関係の不安と「飲酒への誘い」への恐怖
職場の付き合いや、上司・同僚とのコミュニケーションに対して強いストレスを感じ、再就職をためらってしまう場合があります。
「病気のことがバレるのではないか」という不安や、仕事上の飲み会に誘われた際の断り方に悩むあまり、過度に人間関係を避けてしまう傾向があるからです。
アルコール依存症の方が仕事を探す際の3つのポイント
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ようやく「働こう」と思えるまで回復してくると、つい焦って条件の良い仕事や、以前のようにバリバリとした働き方を選びたくなってしまうかもしれません。
しかし、アルコール依存症からの社会復帰で最も大切なのは「長く働き続けること」です。そのためには「再発(再飲酒)を防げる環境」を選ぶことが不可欠となります。
再出発を失敗させないために、職場選びで必ず押さえておきたい3つの重要ポイントを解説します。
生活リズムを整えやすい仕事を選ぶ
まずは「規則正しい時間」に始まり「決まった時間」に終わる、時間外労働が少ない仕事を選びましょう。
過度な疲労や睡眠不足は、脳の自制心を低下させ、飲酒欲求を強める要因の1つとなり得ます。
また、生活リズムの乱れは自律神経を乱し、メンタルの不安定につながります。安定したリズムを保つことが断酒を継続するための防波堤となります。
オープン就労(病気・障害を開示して働く)かクローズ就労(非開示)か
病気や障害を会社に伝えて働く「オープン就労」か、伏せて働く「クローズ就労」かを、現在の回復状況と合わせて考えることも重要です。
オープン就労であれば、通院のための休暇や、体調への配慮を得やすくなります。また、1人で秘密を抱えるストレスが軽減されます。ただし、働ける仕事の選択肢が少なくなる傾向があります。
一方で、クローズ就労の場合、仕事の選択肢が広がります。しかし、周囲からの飲み会の誘いを断る理由に困るなど、病気特有のプレッシャーがかかります。
どちらが自分にとって「安心して働けるか」を重視して考えましょう。
仕事内容より「通院や断酒を優先できる環境」を重視
仕事選びの基準として、給与や職種よりも「治療を継続できる柔軟性があるか」を最優先に考えてみるのもオススメです。酒席への参加を強要されず、周囲の理解を得やすい職場などが良いでしょう。
アルコール依存症は、仕事を始めた後も継続的なケアが必要な病気です。「仕事が忙しいから」という理由で通院をおろそかにしてしまうと、再発のリスクが急激に高まり、結果として仕事を失うことになりかねません。
長期的に断酒と仕事を両立させている当事者の多くは、通院日に合わせたシフト調整が可能な職場を選んでいます。「回復が土台にあってこその仕事」という優先順位を崩さないことが、社会復帰を成功させるために重要なポイントです。
仕事内容で選ぶならば、過度なプレッシャーがかからず、自分のペースで進められる仕事やお酒のことを忘れて業務に集中できる仕事が良いでしょう。
オススメの仕事例
アルコール依存症の方におすすめな仕事例として、以下のような種類を挙げることができます。
- 事務職(一般事務・データ入力)
業務範囲が明確な場合が多く、体調に合わせた相談がしやすい傾向にある。 - IT関連(データ入力・Web制作補助・エンジニア等)
業務に没頭しやすく、在宅勤務など、柔軟な働き方が可能な場合も。PCスキルに自信がない場合は就労支援施設などでIT関連の基礎から学ぶことも可能。 - 軽作業・清掃業
作業内容がシンプルで、仕事復帰のリハビリとしても向いている。 - 在宅ワーク
通勤のストレスを回避でき、自分が管理しやすい環境で働ける。
など
これらの職種はあくまで一例です。ここで解説したポイントを押さえつつ、自身にとって働きやすい仕事を見つけることが、社会復帰への第一歩になるでしょう。
アルコール依存症の方でも利用できる就労支援制度

「働きたいけれど、ブランクがあって不安」
「またお酒に逃げてしまったらどうしよう……」
そんな悩みを1人で抱え込んでいませんか?
実は、アルコール依存症の方が社会復帰を目指す際、強力な味方となる公的な支援制度はいくつも存在します。自分1人の力で解決しようとせず、専門家の力を借りることは、決して甘えではなく「賢い選択」です。
ここでは、一歩踏み出すための具体的な相談先をご紹介します。
就労移行支援事業所
「いきなり一般企業で働くのは自信がない」という方に最もオススメなのが、就労移行支援事業所の活用です。就労移行支援事業所とは、障害者総合支援法に基づく福祉サービスであり、一般企業への就職を目指す障害のある方を対象とした福祉サービスです。
専門のスタッフによる、就労に向けたトレーニングや、履歴書の添削、面接対策、さらには就職後半年間の職場定着支援まで一貫してサポートしてもらえます。
就労移行支援事業所では、単なるビジネススキルの習得だけでなく、規則正しい生活リズムの構築や、ストレスとの付き合い方、再飲酒を防ぐためのセルフケアの仕方など、専門スタッフと相談しながら検討できる環境があります。
以下のようなサポートを受けながら、自身に合った仕事を見つけることもできるでしょう。
- トレーニング
実務スキル(PC、プログラミング等)やビジネスマナー、ストレス管理の方法、SST(ソーシャルスキルトレーニング)など - 就活サポート
履歴書添削、面接同行、企業インターンの調整などのサポートが利用できる - 定着支援
就職後もスタッフが相談に乗り、長く働きつづけるためのサポートを受けられる - 利用期間
原則、最大2年間利用可能
就労移行支援事業所については下記の記事で詳しく解説しています。
就労移行支援は障害者手帳なしでも利用できる!利用するための条件や方法を解説
就労継続支援A型・B型
「働きたいけど、一般企業で働くのは不安」という方にオススメなのが、就労継続支援の利用です。
就労継続支援事業所は、障害や病気がある方を対象として、症状や体調への配慮を受けながら働ける場所を提供している、障害福祉サービスです。A型とB型があり、それぞれ雇用形態などが異なります。
就労継続支援A型
就労継続支援A型では、雇用契約を結ぶため、最低賃金以上の給与が支払われます。1日あたり4~6時間程度の平日勤務がベースとなっているところが多いですが、通院などの事情による欠勤に配慮がある事業所も数多くあります。
一般的に下記のような仕事を扱っています。
- 製造業
製品の組み立て、分解など - 軽作業
商品の検品、梱包、仕分けなど - 事務作業
データ入力、資料や書類の作成など - IT関連
Web制作、プログラミング、ライティングなど
など
あくまで「働く機会」の提供、「就労する場所」としての面が強いため、就労移行支援と比較して、一般企業への就職サポートはそれほど手厚くない点に注意が必要です。
「必要な配慮を受けて働いてみたい」「症状の悪化や再発に気をつけながら働きたい」という方にオススメの制度です。
就労継続支援B型
就労継続支援B型では、雇用契約を結ばずに働くことができます。雇用契約を結ばないため、最低賃金が保証されておらず、工賃は低い傾向がありますが、事業所によって異なります。労働時間の設定も、自分の体調に合わせて柔軟に変更できる事業所が多いです。
一般的に下記のような仕事を扱っています。
- 農作業
野菜や果物の栽培、収穫、販売など - リサイクル業
プラスチックや金属の分別作業など - ものづくり系
絵画、手芸、陶芸など - IT関連
PCを用いたデータ入力、簡単なプログラミング、動画編集など
など
障害者に対して「働く機会」を提供するとともに、「障害福祉サービスを受ける場所」としての役割もあるため、他の就労支援サービスと比較しても、福祉的側面が強い傾向があります。
社会に参加する機会としても利用できるため「無理のない範囲で、短時間労働したい」「長くは動けないが社会に参加したい」と考えている方にオススメです。
ハローワークの専門援助窓口
仕事探しから始めたいときには、ハローワークの一般窓口ではなく、「専門援助窓口」が利用できます。この窓口では、障害がある方への専門的な支援を行っています。
専門援助窓口では、依存症を含む精神障害や難病などの知識がある担当者が配置されており、障害者雇用枠など、病気に理解がある企業の求人紹介を受けられます。障害のある方を対象とした就職面接会への参加も可能です。就職のために新たな技能を身につけたい場合は、職業訓練を案内してもらえます。
また、個別の職業相談に応じるだけでなく、就職後もハローワークや連携する就労支援機関からの支援を受けることができます。
必要に応じて、「ジョブコーチ支援」という専門的な知識を持った援助者が就職先を訪問し、職場に適応できるよう、様々な支援を行う制度についても相談可能です。職場には相談しづらい「体調面の不安」や「職場でのコミュニケーション」などの悩みや困りごとについて、ジョブコーチが間に入り、環境の調整やコミュニケーションサポートなど、適切な支援を受けることができます。
精神保健福祉センター
「まだ働くには早いかもしれないが、どうしよう…」と迷っている段階であれば、お住まいの自治体の精神保健福祉センターへの相談もオススメです。
センターでは、精神保健福祉全般の相談を、電話や面談で行っています。就労支援だけでなく、医療機関や支援機関との連携、自助グループの紹介、家族へのサポート等、幅広く対応してもらえるため、生活の土台を整えつつ、無理のない範囲で社会復帰を考えることができます。
センターの規模によって異なりますが、医師や看護師、保健師、精神保健福祉士、作業療法士など、アルコール依存症を含む、心の健康に詳しい専門職が配置されています。「働きたいが、何から始めたらいいかわからない」という曖昧な悩みに対しても、回復段階に合わせた最適なロードマップを一緒に考えてもらうことができるでしょう。
WORK! DIVERSITY プロジェクト in 岐阜

「WORK! DIVERSITY プロジェクト in 岐阜」は、働きたいのに働けない状況にある岐阜地域6市3町(岐阜市、羽島市、各務原市、山県市、瑞穂市、本巣市、岐南町、笠松町、北方町)在住の方を対象とした、就労系障害福祉サービスを提供する就労支援事業です。
障害者手帳・障害福祉サービス受給者証を取得していない方が対象となるため、アルコール依存症によって働きづらさを抱えているが、障害者手帳などを取得していないという方も利用できます。
利用者は岐阜市内の就労移行支援事業所・就労継続支援A型事業所・就労継続支援B型事業所にて、自身の体調や心の状況に合わせた配慮を受けながら、就労に向けた訓練プログラムへの参加や、働き続ける力を身につけるための支援を受けられます。
ご利用案内 | WORK! DIVERSITY プロジェクト in 岐阜
まとめ|アルコール依存症の社会復帰へのステップと仕事の探し方
まとめ
- アルコール依存症とは、長期間、大量の飲酒を繰り返した結果、アルコールに対して精神的・身体的な依存をきたす精神疾患の1つ。
- アルコール依存症でも、治療を継続し環境を整えることで働くことは可能。就職を検討する際は、断酒の継続期間だけでなく心身の安定が重要。必ず主治医と相談して決定する。
- アルコール依存症の方の仕事での困りごととして、体調やメンタルの不調による遅刻・欠勤、人間関係や飲酒の誘いに対する不安などがある。
- 仕事を探すときのポイントは、「残業が少なく生活リズムを整えやすいか」、「オープン就労かクローズ就労か」、「仕事内容よりも、通院や断酒を優先できる環境か」など。
- アルコール依存症の方が利用できる就労支援として、就労移行支援事業所やハローワークの専門援助窓口、精神保健福祉センターなどがある。岐阜地域6市3町(岐阜市、羽島市、各務原市、山県市、瑞穂市、本巣市、岐南町、笠松町、北方町)在住であれば、「WORK! DIVERSITY プロジェクト in 岐阜」も利用可能。
※今回お伝えした内容は、あくまで社会復帰に向けた1つの考え方です。
アルコール依存症という病気を抱えながら「働けない」現状に悩むのは、本当に辛いことです。しかし、公的な支援制度や専門家の力を借りながら、1歩ずつ着実に進んでいくことで、再び社会とつながれる日が必ずやってきます。
アルコール依存症の治療には長期的な視点が必要となりますが、適切な治療と支援を受けて環境を整えれば、回復(寛解)し、自分に合った仕事で活躍することは決して不可能ではありません。
まずは焦らずに治療と断酒を最優先に行動し、主治医と相談しながら、専門機関の利用を考えてみてはいかがでしょうか。