病気や障がいによって「働きたくても働けない」という人が社会復帰を目指す場合、特に利用をオススメされているのが就労移行支援というサービスです。現在では、日本人の約8%が何らかの障がいを抱えていることがわかっており、就労移行支援のサービス需要も高まりつつあります。
「人との関りが少ない仕事を探しているけど、オススメの業界って何?」
「対人恐怖症の人が受けられる就職支援はないのかな?」
このような疑問を抱えてはいませんか?
本記事では
- 障害者手帳なしで就労移行支援を利用する方法や条件
- 就労移行支援の利用までの3つのステップ
- 障害者手帳は取得するべき?
- 就労支援の対象者を拡大する取り組み「WORK! DIVERSITY プロジェクト in 岐阜」
について解説していきます。
就労移行支援は障害者手帳がなくても利用できますが、一方で利用にはいくつかの条件があったり申請手続きが発生したりします。今回の記事を通して就労移行支援について理解して、あなたの社会復帰にお役立ていただければ幸いです。
就労移行支援とは?
就労移行支援とは、病気や障がいを抱える人を対象にして、就職に必要な知識・スキルを習得するための訓練を行ったり、履歴書の添削や面接練習などの就職活動の全面的なサポートを実施したりしている障害福祉サービスです。
昨今の就労移行支援では提供されている訓練の内容が多様化しており、従来通りの軽作業を中心とした職業訓練はもちろんのこと、
- 「Word」「Excel」「Power Point」などの事務職を目指す訓練
- 「Web制作」「プログラミング」などのIT業界を目指す訓練
- 「イラスト制作」「動画編集」「SNS運用」などのクリエイラーを目指す訓練
このような専門性が高いスキルを習得できる事業所が増加しています。
また、就労移行支援を利用することで、
- 病気の治療と社会復帰へ準備や就職活動を並行して進められる
- 障がいの特性を理解して、支援を受けながら自分に合った仕事が探せる
- 訓練や支援を通して生活習慣の改善が見込める
などのメリットがあります。
就職先の選択肢を広げることにも繋がるため、就労移行支援の利用者の中には「やりたい仕事を見つけられた」「キャリアチェンジに成功した」という人もたくさんいるのです。
そのため、「働きづらさを抱えている」という人にとって、就労移行支援は非常にオススメできる就労支援なのです。
障害者手帳なしで就労移行支援を利用する方法や条件
冒頭でも述べている通り、就労移行支援は障害者手帳を所持していなくても利用することが可能です。就労移行支援は障がい者を対象とした就労支援であるため、この点は多くの人が誤解しやすいポイントですよね。
以下では、障害者手帳なしで就労移行支援を利用するための条件や方法について解説していきます。
障害者手帳は不要!ただし「障害福祉サービス受給者証」が必要
障害福祉サービス受給者証(以下:受給者証)とは、障害福祉サービスを利用するための証明書となるものです。そのため、就労移行支援を利用するためには受給者証が必須となります。
受給者証を発行するには、「病気や障がいの状況」を証明して市役所の障害福祉窓口で申請する必要があります。発行には、申請から2週間~1カ月程度の時間がかかります。
「病気や障がいの状況」については、
- 障害者手帳
- 医師の診断書
- 医師の意見書
- 自立支援受給者証(精神疾患の人のみ)
これらの書類のいずれか1つがあれば証明できるため、受給者証の発行は障害者手帳がなくても行えるのです。これが、障害者手帳がなくても就労移行支援を利用できる理由です。
ただし、受給者証を発行するには原則的に医療機関の受診が必要となる点に注意しましょう。
障害手帳の有無が受給者証の発行に影響することはないため、安心してくださいね。
就労移行支援を利用するための3つの条件
就労移行支援の利用するには、以下で解説する3つの条件があります。
もっとも、以下の条件は一般的に求められるものであるため例外もあります。そのため、あなた自身が「就労移行支援を利用できるか?」については、自身の状況や医師のアドバイスを整理した上で事業所や自治体に問い合わせを行うことも大切です。
病気や障害の診断を受けていること
就労移行支援を利用するためには、
- うつ病、統合失調症などの「精神障害」
- 自閉スペクトラム症やADHD、学習障害などの「発達障害」
- 重度や軽度、グレーゾーンを問わない「知的障害」
- 四肢不自由、視覚障害、聴覚障害などの「身体障害」
- パーキンソン病、ALSなどの「難病」
などの、障害者総合支援法の対象疾患の診断を受けている必要があります。
上記の病気や障がい以外にも対象疾患は300種類以上あるため、就労移行支援は様々な人が利用できるサービスです。また、「適応障害」「発達障害グレーゾーン」などの障害手帳の取得が難しい疾患を抱えている場合でも、就労移行支援の利用が可能です。
参考:障害者総合支援法の対象疾病の見直しについて|厚生労働省
65歳未満であること
就労移行支援は「18歳~64歳」までの人を対象としている就労支援サービスです。サービスの利用開始時点でこの年齢制限を満たしている必要があります。
また、延長が認められるケースもありますが、就労移行支援の利用期間は原則として「最大2年間」と定められている点に注意が必要です。
一般企業への就職を希望していること
就労移行支援は、一般企業(障害者雇用を含む)への就職を希望している人を支援するための制度です。そのため、就労継続支援A型・B型での就労を目指している人や、体調面や精神面が安定せず訓練を受けることが難しい状況にある人は、利用できないケースがあるため注意が必要です。
就労移行支援の利用手続き、3ステップに分けて解説!
就労移行支援の利用手続きは、大きく3つのステップに分けられます。
「利用手続きって大変そう…」と感じた人も安心してくださいね。実は、私自身も過去に就労移行支援を利用していた経験がありますが、利用手続きは「就労移行支援事業所のスタッフ」「市役所の職員」などのサポートを受けながら簡単に行うことができました。
利用手続きには3つのステップがありますが、以下の通りです。
1. 利用したい就労移行支援事業所を探す
2. 障害福祉サービス受給者証を申請する
3. サービス等利用計画案の作成から利用開始まで
順を追って解説いたします。
【ステップ1】利用したい就労移行支援事業所を探す
まずは、あなたのお住まいのエリアから利用可能な就労移行支援事業所を探しましょう。就労移行支援事業所の情報は、ネットで検索する以外にも「市役所の障害福祉窓口」などに相談することで集められます。
就労移行支援事業所を探す際に注目したいポイントは以下の通りです。
- 事業所が提供している訓練の内容が、あなたの「やりたい仕事」に結びつくか?
- 事業所からの就職率や職場定着率などの実績はどうなっているか?
- 事業所の口コミや利用者の評判はどうなっているか?
- 事業所までのアクセス手段(就労移行支援は通所による訓練が原則である)
気になる就労移行支援事業所が見つかったら、電話やメールで問い合わせを行いましょう。多くの事業所は利用前に見学・体験を実施しています。そこで「事業所の雰囲気」「どのようなスタッフや利用者がいるか?」など、実際に見学・体験をしなければわからない部分を確認することも大切です。
ネットで事業所を探す場合、以下のサイトを利用するのがオススメです。
【ステップ2】障害福祉サービス受給者証を申請する
利用したい事業所が見つかったら、お住まいの地域の市役所で先述している受給者証を申請しましょう。また、医療機関との連携が必要になる場合もあるため、就労移行支援を利用する旨を主治医に伝えておくことも大切です。
申請に必要な書類や持ち物は以下の通りです。
- 障害者手帳、医師の診断書、医師の意見書、自立支援受給者証のいずれか1つ
- 本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)
- 印鑑
また、受給者証の申請の際には職員との面談で以下のような状況の聞き取りが実施されます。
- あなた自身の病気や障がいの症状
- 治療状況や服薬している薬について
- 就労移行支援の利用や就職に対する意欲
これらの状況を事前に整理したりお薬手帳などの補足となる書類を準備したりしておくと、スムーズに申請が行えるでしょう。
【ステップ3】サービス等利用計画案の作成から利用開始まで
サービス等利用計画案とは、あなたが就労移行支援を利用する目的を明確にして、より質の高い障害福祉サービスを実現させるために作成される書類です。
サービス等利用計画案の作成を通して、
- 改善が必要な課題は何か?(生活習慣の改善や障がいとの付き合い方など)
- 身に付けたいスキルや受けたい訓練は何か?
- 就労移行支援を利用する頻度や期間について
このような点をまとめて、あなたに合った個別の支援プランを組み立てます。
サービス等利用計画案はあなた自身で作成することも可能ですが、相談支援専門員と協力して作成するのがオススメです。相談支援専門員は、「利用予定の就労移行支援事業所」「市役所の障害福祉窓口」「地域包括支援センター」などから紹介してもらうことができます。
作成したサービス等利用計画案を市役所に提出したら、利用手続きは完了します。発行された受給者証が自宅に届いたら、就労移行支援事業所と正式に契約を結んで利用開始となります。
可能なら障害者手帳は取得した方がいい
障害者手帳がなくても就労移行支援の利用は可能ですが、障害者手帳を取得することで様々なメリットがあります。
現在障害者手帳を取得していない人の中には、
- 抱えている病気や障がいでは障害者手帳の取得ができない
- 精神疾患に多いグレーゾーンの診断により障害者手帳の取得ができない
- 精神疾患の発症から半年が経過していないため申請ができない
などの事情がある方がいらっしゃいますよね。
一方で、
「障害者手帳を申請するのが面倒だし、取得する必要を感じない」
「障害者手帳を取得するとデメリットが発生しそう…」
などの理由で障害者手帳を取得していない人もいらっしゃいませんか?
以下では、障害者手帳を取得するメリットやよくある誤解について解説していきます。
経済面での優遇措置が受けられる
自治体によって異なりますが、障害者手帳を取得することで、
- 税金控除の対象になる
- 医療費や福祉サービス利用料の自己負担額の軽減
- 電車やバスなどの公共交通機関の割引が受けられる
- 公共施設の入館料や利用料金の割引が受けられる
などの様々な経済面での優遇措置が受けられるようになります。
就労移行支援の利用期間中は原則としてアルバイトが禁止されており、利用することで賃金なども発生しないため、利用期間中の生活手段は自分で確保しなくてはいけません。そのため、障害者手帳を取得することで経済的な不安を軽減しながら就職を目指すことができるメリットは非常に大きいでしょう。
就職先の選択肢が増える
就労移行支援を利用しての就職には、大きく分けて以下の3つ選択肢があります。
1. 障がい者であることを開示せずに入社する「クローズ就労」
2. 障がい者であることを開示して入社する「オープン就労」
3. 障がい者を対象とした雇用枠で入社する「障害者雇用」
クローズ就労の場合は障害者手帳の有無を問われることはありません。一方で、障がいに対して配慮を受けながら働けるオープン就労や障害者雇用を目指す場合は、障害者手帳の取得が必要になります。
就労移行支援の事業所では、障害者手帳の申請手続きのサポートを実施している場合もあるため、取得することで将来の就職の選択肢が増えるというメリットがある点は把握しておくと良いでしょう。
障害者手帳を取得するデメリットはあるの?
障害者手帳を取得することでデメリットが発生することはありません。
「周囲に自分が障がい者であることを知られてしまい、偏見を持たれるのでは?」
「就職活動で不利になったり、就職後の待遇が悪くなったりするのでは?」
このような不安は、障害者手帳に対するよくある誤解です。
障害者手帳とは、あくまでも障がい者を対象とした様々な支援やサービスを利用するために必要な証明書です。そのため、障害者手帳はあなたに「障がい者である」というレッテルを貼るものではありませんし、日常生活や就職活動において開示を強制されることもありません。
障がい者への理解が進みつつある昨今では、障害者手帳はあなたの今後の働きやすさの向上やキャリアの選択肢を広げる上で重要な役割を持つと言えるでしょう。
「WORK! DIVERSITY プロジェクト in 岐阜」とは?
「WORK! DIVERSITY(ワークダイバーシティ) プロジェクト in 岐阜」とは、岐阜市内在住の働くことに悩みや困難を抱えている全ての人を対象に、障害福祉サービスを提供して就労支援を行う取り組みです。岐阜市と公益財団法人日本財団の連携により、2022年9月より新しく始まりました。
障がい者を対象とした就労支援には、先述している就労移行支援の他にも、
- 雇用契約を結んで時短勤務に従事できる「就労継続支援A型」
- 雇用契約を結ばずに社会福祉を受けながら就労できる「就労継続支援B型」
があります。
従来の制度においてこれらの就労支援は、「障害者手帳も受給者証も取得できない」という人は条件を満たしていないため利用できませんでした。
そこで、「WORK! DIVERSITY プロジェクト in 岐阜」では就労支援の利用条件を緩和して、
- コミュニケーションが苦手で働くことに不安がある
- ニートや引きこもりが長期化しており、働いていない期間が長い
- LGBTQについて悩みを抱えている
などの様々な理由によって働くことに悩みを抱えていれば、障害者手帳や受給者証の有無を問わず就労支援を受けられる体制を整備しているのです。
岐阜市にお住まいで「就労支援を受けたいけれど、利用条件を満たしていない…」という人は、ぜひ一度本プロジェクトに問い合わせください。
まとめ
まとめ
- 就労移行支援は障害者手帳なしでも利用できるが、障害福祉サービス受給者証の発行が必須である
- 就労移行支援の利用には、「病気や障がいの診断を受けていること」「65歳未満であること」「一般企業への就職を希望していること」の3つの条件があり、原則的に医療機関を受診していることも必要となる
- 就労移行支援の利用手続きには、「利用したい就労移行支援事業所を探す」「障害福祉サービス受給者証を発行する」「サービス等利用計画案を作成する」という3つのステップがあり、利用開始までには1カ月程度の時間がかかる
- 障害者手帳を取得することで経済面での優遇措置が受けられるほか、オープン就労や障害者雇用などが利用可能になるメリットがあるため、可能であれば障害者手帳の申請を検討することが大切
- 「WORK! DIVERSITY プロジェクト in 岐阜」では、障害者手帳や受給者証の有無を問わず働くことに悩みを抱えている全ての人が就労支援を利用できる体制を整えている
今回の記事では、「就労移行支援は障害者手帳なしでも利用できる」という点を中心に、就労移行支援の利用方法や「WORK! DIVERSITY プロジェクト in 岐阜」の取り組みについて紹介しました。
病気や障がい以外にも、様々な事情により働きたくても働けないという人にとって、就労移行支援の利用は社会復帰に向けた第一歩となるでしょう。あなたがあなたらしく働ける仕事に出会えることを祈りつつ、この記事の最後とさせていただきます。