「自分のてんかんの症状で、障害者手帳や障害年金はもらえるのかな?」
「てんかんの人が利用できる就労支援制度について知りたい…」
この記事にたどり着いたあなたは、上記のような疑問を抱えてはいませんか?
てんかんは精神障害の対象疾患に含まれているため、てんかんの方は障害者手帳や障害年金をもらえる可能性があります。そのため、軽いてんかんであっても基準を満たしていれば障害者手帳や障害年金を受け取ることができるのです。
てんかんの発作は突然起こることが多いため、仕事や日常生活で制限を受けたり不安を抱えたりしている方もいらっしゃいますよね。
本記事では
- てんかんの症状とは?軽いてんかんって何?
- てんかんで障害者手帳をもらうことはできるの?
- てんかんで障害年金をもらうためにはどうしたらいいの?
- てんかんの方が利用できる就労支援
について解説していきます。
この記事を通して福祉制度や就労支援について理解を深めて、あなたのこれからの生活に役立てていただければ幸いです。
てんかんとは?
私たちは普段、脳細胞の活動によって発生する電流が電気信号となり、動作・思考・感情などを制御しています。てんかんとは、この電気信号に突然の異常が発生することで体の制御を失い、てんかん発作を何度も繰り返す脳の病気です。
てんかん発作には、「意識の喪失」「全身の痙攣」などの重度の発作から、「数秒間ぼんやりする」「一瞬だけ脱力する」などの軽度な発作まで、様々な症状があります。一般的に、てんかん発作は数秒から数分以内に収まり時間経過によって問題なく回復するため、発作自体が命に関わることは極めて稀です。しかし、発作は歩行中の転倒・運転中の事故・入浴中に溺れるなどの事故を誘発する原因となるため、生活に様々なリスクが伴うのです。
現在の医療ではてんかんの方の約70%が治療や服薬により発作をコントロールできるようになっていますが、治療や服薬によって十分に改善が見られない場合、生活に大きな不安や制限を与えることになります。
「てんかん持ちは障がい者になるのか?」という疑問について
日本の社会福祉制度上では、てんかんは精神障害に該当するため「てんかんの方=障がい者」として扱う機会があります。これは、てんかんの方を障害者手帳や障害年金などの制度によって支援可能にするという便宜が図られた結果ですが、てんかんに対する医学的な視点や国際的な診断基準とはやや異なる部分があるのです。
また、てんかんの症状が生活に与える影響は人によって大きく異なるため、
「障がい者として扱われることで、様々な社会福祉制度を利用できるため助かる」
「てんかんが精神障害として扱われていることに違和感がある」
などのように、様々な受け止め方や考え方があります。
そのため、「てんかんがある人は障がい者なのか?」という疑問に対して、一概に答えることは難しいでしょう。
もっとも、社会福祉制度における「障がい者」とは、その人が社会的に支援を必要としていることを示すものであるため、障がい者として扱われることを過剰に意識する必要はありません。てんかんによる生きづらさや困りごとを解消するためには、社会的な誤解や偏見を解くと共に、適切な社会福祉制度を利用することが大切です。
軽いてんかんでは障害者手帳はもらえない?
冒頭で述べている通り、軽いてんかんの方であっても基準を満たしていれば障害者手帳の取得が可能です。
軽いてんかんとは、
- 発作の頻度が少ない(おおむね年に数回程度)
- 発作が短時間の痙攣や脱力などの軽い症状である
- 服薬や治療によって発作をコントロールできている
このような場合に呼ばれることがあります。
ですが、診断上も制度上も何が「軽いてんかん」であるかという明確な基準はありません。そのため、軽いてんかんの方が障害者手帳をもらえるかについては、「てんかんの症状の程度」と「発作が生活や仕事にどの程度の影響を与えるか?」の2つに注目して、支援の必要性から判断されることになります。
次の項目では、てんかんの方が取得できる障害者手帳の種類や内容、認定される基準について見ていきましょう。
てんかんの方が取得できるのは「精神障害者保健福祉手帳」
障害者手帳には、
- 知的障害の方を対象に交付される「療育手帳」
- 身体障害の方を対象に交付される「身体障害者手帳」
- 精神障害の方を対象に交付される「精神障害者保健福祉手帳」
の3種類があります。てんかんは精神障害に該当するため、てんかんの方がもらえる障害者手帳は「精神障害者保健福祉手帳」です。
精神障害者保健福祉手帳には1~3級までの等級があり、
- 常に介助が必要で、自立した生活が困難な場合「1級」
- 日常生活に著しい支障があり、社会生活や就労が困難な場合「2級」
- 日常生活や社会生活に制限はあるが、ある程度自立した生活ができる場合「3級」
障がいの程度や生活への影響の度合いから上記のように等級が決定されます。
また、お住まいの自治体や等級によって提供されるサービスは異なる場合もありますが、精神障害者保健福祉手帳を取得することで、
- 所得税、住民税、相続税などの各種税金の減免
- 医療費や福祉サービス利用料の自己負担額の軽減
- 電車やバスなどの公共交通機関の割引
- 図書館、美術館などの公共施設の利用料金の割引
上記のようなメリットが受けられるようになります。
てんかんで障害者手帳をもらうための基準と考慮される要素
先述の通り、精神障害者保健福祉手帳には1~3級までの等級があるため、てんかんの方が障害者手帳をもらうには、服薬や治療を行っている状態で3級以上の認定基準を満たす必要があります。
「服薬や治療によって発作が抑えられている」場合は障害者手帳の取得が難しくなるほか、「自己判断で服薬や通院・治療をやめてしまった」という場合は障がいの認定対象から外れてしまうため注意しましょう。
てんかん発作の「症状」と「頻度」による認定基準
厚生労働省は、てんかん発作の症状を下記の4タイプに分類しています。
イ | 意識障害はないが、随意運動※が失われる発作 ※随意運動とは、本人の意思で体を動かす運動のこと |
---|---|
ロ | 意識を失い、行為が途絶するが、倒れない発作 |
ハ | 意識障害の有無を問わず、転倒する発作 |
ニ | 意識障害を呈し、状況にそぐわない行為※を示す発作 ※状況にそぐわない行為とは、意味もなく徘徊する、話しかけても反応がない、 奇声や意味不明な言動を繰り返す、などのこと |
上記の発作のタイプと発生頻度に応じて、下記のように障害者手帳の認定基準の目安が設けられています。服薬や治療を行っているにも関わらず、下記の表のいずれかの状態に該当している場合は障害認定が下りると考えられるでしょう。
等級 | 発作のタイプと発生頻度 |
---|---|
1級程度 | ハ、ニの発作が月に1回以上ある場合 |
2級程度 | イ、ロの発作が月に1回以上ある場合 ハ、ニの発作が年に2回以上ある場合 |
3級程度 | イ、ロの発作が月に1回未満の場合 ハ、ニの発作が年に2回未満の場合 |
参考:精神障害者保健福祉手帳の障害等級判定基準の運用に当たっての留意事項
てんかんによる日常生活や社会生活への支障も考慮される
てんかん発作が抑えられていても、日常生活や社会生活に下記のような支障がある場合、
- 食事、掃除、入浴などの基本的な生活行動に制限がある
- 労働時間、作業内容、職業の選択などに制限がある
- 発作による不安や恐怖から、外出を避けて社会的な孤立状態にある
- 服薬によって発作は抑えられているが、副作用が発生している
事情を考慮した上で障害者手帳の必要性が認められる可能性があります。
てんかんによる車の運転が禁止されているケースを例に考えてみましょう。
ケース | 障害者手帳が交付される可能性 |
---|---|
服薬により発作が1年以上起きておらず、 運転の禁止による生活への支障が少ない |
交付されない可能性が高い |
運転の禁止により通勤が困難になり、 仕事にも制限が発生している |
交付される可能性がある (3級が一般的) |
地方在住のため、運転の禁止により 移動手段が大きく制限されている |
交付される可能性がある (3級が一般的) |
てんかんによる生活への支障を正しく考慮してもらうには、あなた自身が生活での困りごとを具体的に整理して、その旨を反映した診断書の作成を主治医に依頼することが大切です。
てんかんで障害年金をもらうのは難しい?
障害年金とは、病気や障がいによって収入が減少したり得られなくなったりした方の生活を、金銭給付により支援するための制度です。障害年金の受給には「労働や生活の能力が明らかに損なわれていること」が求められるため、障害者手帳よりも厳しい審査が行われます。
そのため、一般的な
という見解は正しいと言えるでしょう。
先述している障害者手帳の認定基準と同様、障害年金においても、てんかん発作の「症状」と「頻度」による障がいの認定基準が下記のように設けられています。
A | 意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作 |
---|---|
B | 意識障害の有無を問わず、転倒する発作 |
C | 意識を失い、行為が途絶するが、倒れない発作 |
D | 意識障害はないが、随意運動が失われる発作 |
障害年金の等級 | 障がいの状態 |
---|---|
1級 | 十分な治療にかかわらず、てんかん性発作のA又はBが 月に1回以上あり、かつ、常時の援助が必要なもの |
2級 | 十分な治療にかかわらず、てんかん性発作のA又はBが 年に2回以上、もしくは、C又はDが月に1回以上あり、 かつ、日常生活が著しい制限を受けるもの |
3級 | 十分な治療にかかわらず、てんかん性発作のA又はBが 年に2回未満、もしくは、C又はDが月に1回未満あり、 かつ、労働が制限を受けるもの |
※「十分な治療にかかわらず」とは、てんかん発作を服薬によってコントロールできない状態のこと
参考:国民年金・厚生年金保険 障害認定基準(第8節/精神の障害)
次の項目では、てんかんの方が障害年金を受給できるケースや、受給するために大切なポイントについて詳しく見ていきましょう。
てんかんで障害年金を受給できた2つの具体例を紹介
てんかんのみの診断で障害年金を受給できた具体的な事例を知ることで、「どのような状況の人が認定されやすいのか?」「認定されるために伝えるべき情報は何か?」などのポイントを把握できるようになります。
障害年金は100人いれば100通りの申請方法になるため、一人ひとりの個別の症状や生活への影響を診断書に反映させる必要があります。下記の項目では、2つの事例を見ていきましょう。
40代男性が障害年金3級を受給できた事例
症状 | 月に2~3回程度、意識障害を伴う顔や手が痙攣する発作が発生して いた。 |
---|---|
障害者手帳 | 3級を所持。 |
就労の状況 | 工場の作業員として勤務していたが、発作のリスクから機械操作が 禁止されたため、デスクワーク中心の部署に異動となった。 業務の制限に伴い手当が支給されなくなり、給料が減少している。 |
労働や 生活の能力 |
発作が発生すると、作業を中断して休憩を取る必要がある。 1人での外出に不安が大きく、長時間の外出を控えており公共交通 機関の移動には家族や友人に付き添いを頼むことが多い。 |
予後 | てんかんの症状や発作の頻度は固定されており、治療の継続が必要。 |
20代男性が障害年金2級を受給できた事例
症状 | 高校生の頃にてんかんと診断されて以降、週に5回程度の数秒間 意識を失う小発作と、年に数回の意識を失い痙攣しながら倒れる 大発作が継続していた。 |
---|---|
障害者手帳 | 1級を所持。 |
就労の状況 | 仕事中に発作が頻発することが原因となり離職して以降、てんかんの 症状を伝えて就職活動を続けるも不採用が続いていた。 現在は無職の状況。 |
労働や 生活の能力 |
仕事には支障が大きく就労が困難であり、行動範囲は自宅付近に 限られており、付き添いが必要な状態。 |
予後 | てんかんの症状や発作の頻度は固定されており、治療の継続が必要。 |
障害年金をもらうには、生活状況を具体的に伝えることが大切
てんかんによる障害年金の認定は、単に発作の症状と頻度だけで決まるのではなく、発作がない時の状態も審査の対象となっています。そのため、発作がない時に抱えている生活への不安や制限・影響・気を付けなければいけないことを、主治医に具体的に伝えることが大切です。
例えば、先述している「40代男性が障害年金3級を受給できた事例」において、
主治医にこのように伝えるだけでは情報が不十分になりやすいのです。
あなたの生活や仕事の状況は、主治医でも正確に把握することが困難なため、
などのように、実際に発生している困りごとをあなたの言葉で正しく伝えましょう。
てんかんの方が利用できる就労支援制度
就労支援とは、病気や障がいを抱える方を対象として、就職活動や就職後の労働をサポートするサービスの総称です。単に職業紹介を行うだけでなく、就職に必要なスキルを身に着ける訓練や体調や治療経過に応じた働き方の提案・提供などが実施されている特徴があります。
次の項目では、働くことに不安を抱えたてんかんの方に向けて、利用できる就労支援制度について紹介していきます。
就労移行支援
就労移行支援とは、一般企業への就職を目指す障がい者を対象に、
- 就職に必要な知識やスキルを身に着ける訓練
- 履歴書の添削や面接練習などの就職活動のサポート
- 病気や障がいと付き合いながら働ける仕事や職場環境の相談
などの支援を実施している就労支援サービスです。
昨今の就労移行支援が扱う訓練内容は多様化しており、
- 「Web制作」「プログラミング」などのIT業界を目指す訓練
- 「グラフィックデザイン」「動画編集」などのクリエイター職を目指す訓練
- 「簿記の資格取得」「Word・Excel」などの事務職を目指す訓練
など、専門性が高い分野への就職を目指せる事業所が増加しています。
そのため、てんかんの方の就職活動において、
「てんかん発作の影響で、デスクワーク中心の仕事にキャリアチェンジしたい…」
などの様々な悩みやニーズに寄り添った支援を受けられるのが就労移行支援というサービスです。
一方で、就労移行支援の利用に伴い給料は発生せず、利用期間中は原則アルバイトなどが禁止されているため、障害年金などの制度を活用して生活手段を確保する必要がある点に注意しましょう。
障害者手帳がなくても、医師の診断書等があれば利用できます。
就労継続支援A型
就労継続支援A型とは、障がい者を対象として、障がいの症状・特性や日々の体調変化、通院などへの配慮を受けながら働ける場所を提供している就労支援サービスです。雇用契約を結んだ上で時短勤務に従事することが多く、就労継続支援A型の利用者の平均給与は月額8~9万円程度となっています。
A型事業所が扱う仕事には下記のようなものがあります。
- Web制作、プログラミングなどを行うIT系の仕事
- データ入力や書類作成などのパソコンを用いた事務作業
- 製品の仕分けや梱包などの軽作業
- カフェやレストランでの調理や接客を行う飲食業
A型事業所の中にはテレワーク・在宅就労を導入している事業所があり、てんかんの方の就労支援を得意としている事業所もあります。
「無理なく働ける環境で、てんかんと付き合いながら働くことに慣れたい」
などの様々なニーズを抱えているてんかんの方にオススメできるのが、就労継続支援A型というサービスです。
また、就労継続支援A型は就労移行支援と同様、障害者手帳が無くても利用できます。
日本てんかん協会(別名:波の風)
日本てんかん協会とは、てんかんの方やその家族を支援するために設立された公益社団法人です。主にてんかんの方の「医療・福祉・教育・就労」に関する相談や情報提供に力を入れており、てんかんに対する社会的理解の促進や正しい知識の普及を通して、てんかんの方の社会活動を支援しています。
日本てんかん協会の活動や支援内容は様々ですが、就労支援については、
- 就職活動の進め方や制度の活用方法などのアドバイスを行う個別相談
- 就職後の職場環境や働き方などの悩み相談をはじめとする、職場定着のサポート
- 企業に向けた啓発活動を通して、てんかんの方の雇用を促進させるための活動
などが実施されています。
日本てんかん協会はてんかんの方の支援に特化しているため、一般的な就労支援サービスよりも個別の発作のリスクや病状に寄り添いながら具体的なアドバイスに期待できる点が特徴です。
日本てんかん協会は各都道府県に支部が設置されています。継続的な支援を希望する場合は会員(入会費+年会費:5,000円~)になることでより充実したサポートを受けることができます。
参考:公益社団法人日本てんかん協会
WORK!DIVERDITY(ワークダイバーシティ)プロジェクト in 岐阜
「WORK! DIVERSITY プロジェクト in 岐阜」とは、2022年9月より開始された岐阜市内在住の「働きたくても働けない」「働きづらさを抱えている」という悩みを持つ岐阜市民の方を対象に、障害福祉サービスを提供して就労支援を行う取り組みです。
「WORK! DIVERSITY プロジェクト in 岐阜」では、様々な理由によって働くことに悩みを抱えていれば、障害者手帳や受給者証の有無を問わず就労移行支援事業所や就労継続支援事業所を利用できます。
てんかんで働きづらさを抱えて悩んでいるけれど、障害者手帳を取得できていないという方は、一度「WORK! DIVERSITY プロジェクト in 岐阜」へ相談してみてはいかがでしょうか?
ご利用案内 | WORK! DIVERSITY プロジェクト in 岐阜
まとめ|軽いてんかんで障害者手帳や障害年金は受けられる?
まとめ
- てんかんの方は、大きく「発作の症状と頻度」「生活への支障の程度」の2点から支援の必要性が認められたら障害者手帳をもらうことができる。
- てんかんの方が障害年金をもらうには、大きく「発作の症状と頻度」「労働や生活の能力の喪失の程度」の2点から、具体的な困難や支障が発生していることを認められる必要がある。
- 障害者手帳と障害年金は、どちらも「発作がない時の状態」を含めて審査を行うため、てんかんによってあなた自身が直面している「不安」「制限」「気を付けなければいけないこと」を具体的に整理して、その旨を主治医に伝えることが大切。
- てんかんの方は「就労移行支援」「就労継続支援」などの就労支援サービスが利用できる。
- 「日本てんかん協会」はてんかんの方の社会活動を支援しており、就労支援を受けることもできる。
今回の記事では、「てんかんの方は障害者手帳や障害年金をもらえるのか?」という点に注目しながら、てんかんの方が利用できる就労支援について紹介しました。
てんかんの方が社会福祉制度や就労支援サービスを適切に利用することは、あなた自身の生活の支えになります。
医療だけでなく、社会福祉制度や就労支援サービスも活用していきましょう。