PTSD

仕事のストレス・いじめ・パワハラが原因でPTSDに…取るべき4つの行動と就労支援を解説

PTSDは、一般的に「戦争や災害などの被害者に多い」というイメージを持たれやすい精神疾患です。そのため、「仕事もPTSD発症の原因になる」という点については十分に理解されておらず、「精神的に弱い方が発症する障害」という誤解や偏見が多いのが現状でしょう。

この記事を開いているあなたは、

「仕事が原因でPTSDになったらどうすればいいの?」
「利用できる社会福祉サービスや就職支援を知りたい」

このような悩みや疑問を抱えてはいませんか?

本記事では

  • PTSDとは?仕事が原因で発症することもあるの?
  • 仕事が原因でPTSDを発症した時に取るべき行動
  • PTSDの方が利用できる就労支援

について解説していきます。

この記事が、PTSDを抱えるあなたの仕事の悩みの解消になれば幸いです。

PTSDとは?

PTSDとは「心的外傷後ストレス障害」と呼ばれる通り、命に関わる危険やトラウマとなる恐怖体験がきっかけとなり発症する精神疾患です。世界保健機構の調査では、日本人の約100人に1人がPTSDを抱えていると発表されており、「精神的な強さ」とは関係なく誰にでも起こりうる病気なのです。

PTSDの代表的な症状には下記のようなものがあります。

  • トラウマ体験の記憶がフラッシュバックして現実との区別がつかなくなる
  • トラウマに関連する悪夢にうなされて目が覚めたり眠れなかったりする
  • トラウマを思い出す出来事、物事、話題、行動などを避けるようになる
  • 些細ささいなことに過剰に反応してイライラしたり恐怖を感じたりしやすくなる
  • 様々な物事を否定的に捉えるようになり、楽しさや嬉しさなどを感じにくくなる

上記のような症状から、PTSDの方は日常生活・仕事・人間関係などに様々な困難を抱えてしまいます。また、「うつ病の併発」「身体への健康被害」「引きこもり」などの二次的な問題に繋がるリスクも高いのです。

PTSDの方の50%以上は3か月以内に自然治癒すると言われていますが、一方で3人に1人以上は症状が長引き慢性化することで知られています。そのため、「時間が解決してくれる病気」という認識を持つのではなく、精神科・心療内科での適切な治療を受けると共に、家族や友人から理解を得られる環境を整えて、社会復帰に向けた適切な支援を受けることが大切です。

仕事でPTSDを発症する2つの原因

PTSDの原因となるトラウマ体験としては、「大規模な自然災害」「交通事故」「身体的・性的暴行などの犯罪被害」「家族や友人との死別」などが挙げられます。そのため、医療従事者・消防隊・警察官などの職業の方は、PTSDを発症しやすいのです。

ですが、上記のようなトラウマ体験以外にも「長期的なストレス」「疲労や体調不良」がPTSDの原因となることがあります。この項目では、仕事でPTSDを発症する原因について見ていきましょう。

職場内のパワハラ・いじめ

職場内でのパワハラ・いじめは精神的暴力や心理的虐待であるため、PTSDを発症する原因になります。

パワハラ・いじめには、殴るなどの身体的暴力はもちろんのこと、

  • 暴言による過剰な叱責、人格否定、侮辱的な発言
  • 過剰なノルマや達成不可能な目標の押し付け
  • 能力や仕事の成果が適切に評価されない、意図的に仕事を与えない
  • 職場内から意図的に孤立させる、陰口や嫌がらせ

などの行為も含まれているのです。

特に、上司や先輩などの立場を利用したパワハラや集団でのいじめは継続して繰り返されることが多く、「反抗してはいけない」「生活があるから仕事からは逃げられない」「自分が悪いのだろう」といった心理状態に陥りやすくなります。パワハラ・いじめによって逆らえない恐怖を感じたり尊厳を奪われたりすることで、脳はこれらをトラウマ体験として記憶するのです。

「日常的に上司から怒鳴られているシーンがフラッシュバックしてしまう」
「会社に行こうとすると手足が震えたり動悸がしたりして、出社できない」

などの症状が続く場合、PTSDの可能性が疑われます。

長時間労働による過労

過労とは、単なる働きすぎではなく「命を削りながら働いている状態」です。過労死という言葉がある通り、長時間労働による過労は脳出血や急性心不全を引き起こして命に関わる危険があるのです。

そのため、

  • 長時間の残業や休日出勤が常態化している
  • 食事や睡眠時間を削ってまで働くことを求められる
  • 体調不良が続いていても休むことができない

このような過酷な労働環境に身を置いている場合、ストレスや疲労の蓄積が仕事に対するトラウマを形成してPTSDを発症する原因となることがあります。

また、責任感が強い方ほど、

「他の人も辛い思いをしているのに、自分だけ休むわけにはいかない」
「自分が何とかしなくては周りに迷惑がかかってしまう」
「この前のミスの責任は自分にある、もう2度と繰り返さないようにしなくては」

などの厳しいノルマやプレッシャーから、自分で自分を追い込んでしまう傾向があるため、過労によるPTSDの発症リスクが高いとされています。

私たちは誰しも過酷な状況に耐え続けると限界を迎えてしまうため、心身が壊れる前に「その場から逃げ出す」という勇気を持つことが大切なのです。

PTSDになったら仕事はできない?取るべき4つの行動

仕事が原因でPTSDを発症した場合、そのまま働き続けるのは現実的ではありません。PTSDを含むあらゆる精神疾患について、「我慢すれば治る」というのはよくある誤解です。

この項目では、PTSDを発症したら取るべき行動を4つ紹介していきます。

精神科・心療内科を受診する

「PTSDかもしれない」と思った時は、迷わず精神科・心療内科を受診しましょう。受診の目安はPTSDが疑われる症状が1か月以上続くこととされていますが、生活や仕事に影響が出ている場合は早めに受診することが大切です。

特に、PTSDは適応障害・うつ病・不安障害などの精神疾患と混同されやすいため、自己判断のみで病状を把握することは困難です。適切な治療を受けたり後述する支援制度を利用したりするには、専門医による正確な診断を受けることが必要になります。

PTSDは薬物療法やカウンセリングなどの治療が効果的であり、

  • フラッシュバックの原因となる要因をなくして生活環境を調整する
  • 日常生活の中で実践できるストレスケアの方法を身に着ける

などのアドバイスを貰いつつ、ゆっくりとトラウマの恐怖を緩和していきましょう。

職場環境を調整して配慮を求める

PTSDを発症しても働き続ける場合は、職場に対して理解や配慮を求めることが大切です。上司や人事部に医師の診断書と合わせて「あなた自身の症状」「仕事への影響」「職場に求めたい配慮」などを伝えることで、PTSDについて職場での理解を得やすくなります。

実際に、PTSDを発症しても、

  • 部署異動の希望を出してパワハラやいじめを行っていた人から距離を取る
  • 過酷な労働を避けられるように業務内容や勤務時間の調整を求める
  • 音や光などの刺激が少なく仕事に集中しやすい環境を整える

このような配慮によって働き続けられた事例は多く挙げられています。

「働くためにどのような配慮が必要か?」については、あなた自身がPTSDの症状の理解を深めると共に、主治医と相談して具体的な内容の診断書の作成を依頼することが効果的です。

無理せず休職することも大切

休職とは、病気や怪我で働けなくなった従業員に対して、治療に専念するための長期休暇を取得させる制度です。一般的に休職中は給料が発生しませんが、社会保険に加入していれば「傷病手当金」という形で毎月の給料の約2/3の金額を受け取ることができます。

職場環境によっては、先述している職場環境の調整や配慮を求めることが難しい場合もありますよね。そのような時に、休職は離職や転職よりも先に利用するべき制度です。

ただし、休職は会社ごとに福利厚生の一環として任意で設けられている制度であるため、

  • PTSDで休職は利用できるのか?
  • 休職できる最大期間はどれくらいか?
  • 復職するための条件や復職に向けたサポートは受けられるか?

などの点を、就業規則を読んだり人事部に問い合わせたりして確認しておきましょう。

PTSDの治療を進めるためにも、「休職すると会社に迷惑がかかるかも…」などとは考えずに自分の心身の健康を最優先にすることが大切です。

休職中の過ごし方のポイント

休職期間中に何よりも大切なのが「しっかりと休む」ことです。心身が回復して自然に「何か活動したい」と思えるようになるまでは、生活リズムの改善などを意識せず「だるい時は横になる」「眠い時は寝る」という体の欲求に従った過ごし方で十分です。何もしない時間を確保すると良いでしょう。

また、PTSDの症状が続いている状況では判断力が低下しているため、復職・離職・転職などの重要な決断を急ぐ必要はありません。焦らずにあなたのペースで「心身の回復→生活習慣の改善→仕事の選択」という段階をクリアしていきましょう。

復職の条件を整理しておこう

一般的に復職に求められる条件として、下記のようなものが挙げられます。

  • 主治医の診断書によって復職の許可が下りること
  • 職場側の配慮や調整が可能な範囲で働けること
  • 本人に復職の意思があること

復職に向けて動く場合には、会社と相談した上で業務内容・業務量・勤務時間などの復職後の働き方を擦り合わせることが大切です。もっとも、パワハラやいじめによって休職した場合は会社側に重大な責任があるため、PTSDの発症に繋がる根本的な問題の解決を求めることも忘れないようにしましょう。

リワークプログラムの利用も効果的

リワークプログラムとは、主に精神疾患が原因で休職している方を対象として、復職に向けたリハビリを行う支援のことです。リワークプログラムは、医療機関や地域障害者職業センターなどで受けられるほか、会社が独自の復職支援制度を設けている場合もあります。

リワークプログラムでは復職した後のことを想定してレクリエーションや訓練が実施されるため、「復職するための自信を持てる」「病気の再発予防に繋がる」というメリットが大きく、スタッフの支援を受けながら復職の条件を整理することもできます。

障害者手帳の取得を検討しよう

障害者手帳とは、障害のある方が日常生活や社会生活を送る上で必要な福祉サービスを利用するための証明書となるものです。PTSDの方がもらえる障害者手帳は「精神障害者保健福祉手帳」であり、「病状が6か月以上続いており、生活に支障をきたしている」という条件を満たしていれば取得できる可能性があります。

自治体によっても異なりますが、障害者手帳の取得によって、

  • 受診料や薬代などに発生する医療費が助成される
  • 電車やバスなどの公共交通機関が割引される
  • 住民税や所得税などの税金が減免される
  • 日常生活をサポートするヘルパー制度が利用できる

このようなサービスが受けられるメリットがあります。

福祉サービスを利用することは、休職や離職によって発生する経済的な困窮や生活上の不安の軽減にも繋がるため、主治医と相談して障害者手帳の取得を検討しておくことが大切です。

PTSDの方が利用できる就労支援制度4選

仕事が原因でPTSDを発症してしまうと、

「同じ職場に戻ったらまたトラウマがフラッシュバックしてしまうのでは?」
「転職先の職場でもパワハラやいじめにあったらどうしよう……」

と不安を抱えてしまい、社会復帰そのものが怖いと感じてしまいますよね。

この項目では、そのような時に利用できる就労支援制度を4つ紹介していきます。

就労移行支援

就労移行支援とは、一般企業への就職を目指している障害者を対象に、就職するために必要な知識・スキルを身に着ける訓練や就職活動の全面的なサポートを行っている障害福祉サービスです。

PTSDの方が就労移行支援を利用すると、

  • 治療と並行しながら自分のペースで社会復帰に向けたサポートが受けられる
  • あなたに合った職場を探すサポートが受けられる
  • 就職後も継続して職場定着支援を受けられる

このようなメリットがあります。

また、就労移行支援は障害者手帳が無くても利用できる支援であり、休職中の方が復職したいと考えている時に復職支援を受けるために利用できる場合もあります。

昨今の就労移行支援では、「IT・プログラミング」「デザイン・動画編集」などの専門的なスキルを身に付けられる事業所も増加しているため、

「障害を抱えていても働きたい業界で転職・再就職したい」
「障害者になってしまったらどのように社会復帰を目指せばいいの?」

などの悩みを抱えているPTSDの方にオススメの就労支援です。

就労継続支援A型

就労継続支援A型とは、障害者を対象にした、障害の症状・日々の体調変化・通院などへの配慮を受けながら働く場所を提供している就労支援サービスです。雇用契約を結んで仕事をするため最低賃金が保証されている特徴があります。時短勤務で働くことが多いため、就労継続支援A型での平均給与は約8~9万円となっています。

「PTSDの治療を進めながら働ける仕事を探している」
「正社員で就職するのは難しいから、今は配慮を受けながら働きたい」

このように考えている方にとって、就労継続支援A型は特にオススメのサービスです。

就労移行支援と同様に就労継続支援A型も障害者手帳がなくても利用できるサービスであり、休職中に利用が認められる場合があります。

ただし、休職中に就労継続支援A型から給料を受け取った場合は、その金額が傷病手当金から減額される場合があります。また、会社の就業規則で「休職中に就労支援を利用しても問題ないか?」「二重雇用の問題は発生しないか?」などの点を確認するようにしましょう。

地域障害者職業センター

地域障害者職業支援センターとは、障害者の復職・再就職に向けた就労支援を実施すると共に、障害者を雇用する企業に対する援助を行っている公的機関です。

ハローワークと連携しながら障害者の「職業相談・キャリア相談」「職業適性診断」「求人紹介」などの支援を実施している他、先述している休職中の方の復職に向けた「リワークプログラム」「ジョブコーチ支援」などのサービスも行っています。

特に、ジョブコーチ支援は障害者が職場に適応できるように労働条件や職場環境を整備する役割を担っているため、復職・転職・再就職の際に企業との懸け橋となる心強い支援です。復職後や就職後の人間関係の構築や障害に対する誤解・偏見を解消して職場に定着するためのサポートが受けられるため、PTSDにより社会復帰に不安を抱えている方は積極的に活用したい就労支援です。

参考:職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援|高齢・障害・求職者雇用支援機構

WORK!DIVERDITY(ワークダイバーシティ)プロジェクト in 岐阜

WORK! DIVERSITY プロジェクト in 岐阜
「WORK! DIVERSITY プロジェクト in 岐阜」とは、2022年9月より開始された岐阜市内在住の「働きたくても働けない」「働きづらさを抱えている」という悩みを持つ岐阜市民の方を対象に、障害福祉サービスを提供して就労支援を行う取り組みです。

「WORK! DIVERSITY プロジェクト in 岐阜」では、様々な理由によって働くことに悩みを抱えていれば、障害者手帳や受給者証の有無を問わず就労移行支援事業所や就労継続支援事業所を利用できます。

岐阜市にお住まいで、PTSDで働きづらさを抱えて悩んでいるという方は、まずは「WORK! DIVERSITY プロジェクト in 岐阜」へ相談してみてはいかがでしょうか?

ご利用案内 | WORK! DIVERSITY プロジェクト in 岐阜

まとめ

まとめ

  • PTSDとは、命に関わる危険や恐怖体験がトラウマとなり、何度もトラウマシーンがフラッシュバックしてしまう精神疾患
  • PTSDは「パワハラやいじめによる長期的なストレス」「長時間労働による過労」が原因で発症することもあり、誰にでも起こり得る病気
  • PTSDは我慢しても改善されないことが多いほか、うつ病などの精神疾患を併発するリスクも高いため、医療機関で適切な治療を受けることが大切
  • 仕事を続ける場合は、PTSDの症状が悪化しないよう会社側に労働環境や労働時間の調整を求めるほか、パワハラやいじめなどの根本的な原因の解決を求めることが大切
  • PTSDの治療に専念するためには「休職」という選択肢があることも忘れてはいけない
  • 休職からの復職や転職、再就職を進める場合は、「就労移行支援」「就労継続支援A型」「地域障害者職業センター」などで就労支援を受けるのがオススメ

今回の記事では、「仕事が原因でPTSDを発症したらどうすればいいのか?」という点に注目しながら復職のポイントや利用できる就労支援について紹介しました。

過酷な環境に置かれたことが原因で精神疾患を発症することは決して珍しくありません。「自分は精神的に弱いのだろうか?」「自分に原因があるのだろうか?」などと考えずに、適切な対応と支援を頼ることが大切です。

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