現代社会は「ストレス社会」と呼ばれている通り、私たちは「仕事」「人間関係」「経済的不安」など様々な要因でストレスを受けることがあります。
そのため、日本人の6人に1人は生涯で何らかの精神疾患にかかると言われているのです。
この記事にたどり着いたあなたは、
「明日の仕事のことを考えると不安で夜も眠れなくなってしまう」
「毎日会社に行くのが憂鬱で、このまま働き続けるのはもう限界かも……」
このような悩みを抱えてはいませんか?
「働くのが怖い」「会社に行くのが怖い」と感じる原因は適応障害かもしれません。
本記事では
- 適応障害とはどのような精神疾患なのか?
- 適応障害かもしれない時に取るべき行動
- 適応障害の方が働きやすい仕事を見つけるためのポイント
について解説していきます。
この記事の執筆をしている私自身も、初めて精神科を受診した時に適応障害の診断を受けました。それから2年後に症状が悪化して、うつ病の診断を受けたことを理由に前職を退職しています。
その時の私の経験も踏まえて、適応障害かもしれない時に「知っておくと役立つ情報」を紹介しています。最後までお付き合い頂ければ幸いです。
適応障害とはどのような精神疾患なの?
適応障害とは、日々の出来事や現在置かれている状況に適応できずに強いストレスを受けることが原因となり、気分の落ち込みや不眠などの症状が現れる精神疾患です。
そのため、
- 転勤や部署異動などによる環境の変化
- 繁忙期などによる激務
- 職場内のハラスメントや人間関係のトラブル
などによって受けるストレスは、適応障害の原因となりやすいです。
適応障害の症状の多くは、ストレスの原因が解消されると回復に向かいます。一方で、ストレスに適切な対処ができなければ症状が悪化する場合も多く、適応障害と診断されてから5年後には、40%以上の方が「うつ病」などの精神疾患を発症しています。
つまり、適応障害はうつ病などの重い精神疾患になる前段階であると考えられているのです。
以下では、適応障害の症状やうつ病との違いについて解説していきます。
適応障害の症状や仕事への影響
適応障害は、精神や身体に様々な影響を与えることで知られています。
具体的には、以下のような症状が現れることがあります。
精神的な症状
- 異常に落ち着かない、緊張を感じる
- 気分が落ち込んで意欲が低下する
- なかなか眠れない、朝早くに目が覚めるなどの睡眠障害
- イライラする、涙もろくなるなど、感情のコントロールができなくなる
- 不安や恐怖を感じやすくなる
身体的な症状
- 食欲の低下や過食などの摂食障害
- 胃の痛みや吐き気
- 疲労感やだるさがあり、休んでも改善されない
- 息切れ、動悸、めまい、頭痛などが発生する
- 全身の筋肉が凝りやすく、身体にしびれが発生する
これらの適応障害の症状は行動面にも影響を与えることも多いため、
「集中力が低下してケアレスミスが増える」
「遅刻や無断欠勤をしてしまう」
「コミュニケーションを避けるようになる」
など、これまで通りに仕事を続けるのが困難になる場合があるのです。
適応障害とうつ病は何が違うの?
適応障害とうつ病は現れる症状に共通点が多いため混同されやすい精神疾患ですが、この2つには以下のような違いがあります。
適応障害
- 発症の原因となるストレスが特定できる
- ストレスから離れると症状が回復する
- 現れる症状は一時的であることが多く、慢性化することは少ない
- 自尊心の低下や絶望感、罪悪感を抱えることは少ない
うつ病
- 発症の原因を特定することが難しい
- ストレスから離れてもすぐに症状が回復しない
- 抑うつ状態や倦怠感などの症状が慢性化することが多い
- 自尊心が低下して、常に絶望感や罪悪感を抱えていることが多い
これらの違いから、適応障害の場合は発症の原因となるストレスを取り除くことが有効な治療法になる一方で、うつ病の場合は、心身の休息をとりながら薬物治療やカウンセリングなどを組み合わせた長期間の治療が必要になります。
適応障害は、「うつ病の症状は確認できるけれど、うつ病の診断基準には満たない」という場合に診断される精神疾患です。そのため、適応障害の原因となるストレスを早期に特定して、適切な対処を行うことが大切です。
仕事が原因で適応障害になりやすい人の特徴
一般的に、以下のような特徴を持つ方は適応障害になりやすいと言われています。
- 責任感が強く真面目
- 自分よりも他人を優先してしまう
- 頼みごとを断れない
- 周囲からどう思われているのかが気になる
- 人に頼ることが苦手
これらの特徴から、「何事も自分のせいと思い込みがち」「他人を優先しすぎて無理をしやすい」という人は、自分の限界を超えてストレスを抱え込みやすい傾向があります。
また、「完璧主義」「心配性」「几帳面」などの性格によって大きなストレスを感じてしまうケースもあります。ストレスへの耐性や処理能力についても個人差があるため、同じ環境に置かれていても適応障害になる人とならない人がいるのです。
「適応障害かもしれない」と感じた時に取るべき行動
「仕事が怖くて会社に行けない」
「仕事のことを考えるだけでも不安で押しつぶされそう」
このような適応障害の症状を我慢しながら働くのは辛いですよね。「仕事を辞めたい」と考えている方も多いはずです。
ですが、仕事を辞めるという決断を急ぎ過ぎると、離職後の生活プランが整わないまま収入が途絶えることになります。今後の生活の不安から「早く再就職しなければ」という焦りが生まれてしまい、適応障害の症状が悪化するという悪循環は避けなくてはいけません。
そこで、「適応障害かもしれない」と感じた時は「休職制度」を活用することが推奨されています。休職制度を利用すると、現在あなたが勤務している会社に在籍したまま、治療や休養に専念する時間を確保することが可能になります。
以下では、適応障害かもしれない時に取るべき行動や休職制度について紹介していきます。
まずは休職制度について確認しよう
休職とは、病気や怪我で働けなくなった従業員に対して、一定期間の労働を免除して療養に専念させるための制度です。
休職中は給料が支給されないことが一般的ですが、毎月給料の約2/3のお金を受け取れる傷病手当金によって生活費を確保できます。ただし、国民健康保険に加入している方は傷病手当金の対象外となっているため注意が必要です。
また、休職は法律上の定めがある制度ではありません。休職の制度を導入している会社は全体の約80%となっており、休職制度の中身もそれぞれの会社が独自に規定を設けています。
そのため、あなたの務める会社の休職制度について事前によく確認しておくことが重要です。
特に注意しておきたいポイントは以下の3点です。
- 適応障害で求職制度は利用できるか?
- 求職はどれくらいの期間できるか?
- 復職の条件や復職までの流れ
会社によっては、休職制度以外にも従業員の精神疾患をケアするための取り組みを行っている場合があります。まずはあなたの会社の就業規則を確認したり、人事部に問い合わせたりすることで情報収集を行いましょう。
精神科・心療内科を受診する
「適応障害かもしれない」と思った時は、精神科・心療内科を受診することが大切です。受診の目安は適応障害の症状が1~2週間以上続いていることとされています。仕事や日常生活に支障が出ているほど深刻な症状である場合は、迷わず病院を頼りましょう。
セルフチェックの結果から適応障害が疑われる場合でも、それは確定診断ではありません。適切な治療を受けたり、休職制度を利用したりするには、専門医から確定診断を受けることが何よりも大切です。
受診時の症状や治療の経過などを踏まえて、
- 休職するべきか?
- 適応障害の原因となるストレスは何か?
- 仕事を続けるなら会社にどのような配慮を求めるべきか?
などについて、専門医に意見を求めることができます。
また、「どうしても仕事が辛い」という場合は無理をせずに「休職したい旨」を医師に伝えて、診断書の作成を依頼しましょう。
会社に適応障害であることを伝える
精神科・心療内科を受診して適応障害の確定診断が下りた場合、その旨を会社の上司に伝えることが大切です。診断書などの病状の証明ができるものと合わせて、あなた自身の症状を正確に伝えるよう心掛けましょう。
その後は、診断書に記載されている医師の指示に従うことになります。労働時間や業務量などを見直す環境調整が実施されるか、休職に入るのが一般的です。
ですが、会社に適応障害であることを伝えるのは勇気が必要ですよね。関係性が悪いなどの理由で、上司に直接伝えるのが難しいこともあるでしょう。
このような場合は、
- 人事部や産業医に伝える
- 診断書を添えてメールや書面で連絡する
という手段もあります。
適応障害の方が働きやすい仕事を探すための3つのポイント
適応障害で働くのが怖い・会社に行けない時には、当然ですが「仕事を辞める」のも1つの選択肢です。休職をしても症状が十分に回復しなければ、退職せざるを得ないでしょう。
そこで、あなた自身が働きやすいと感じられる職場の条件について整理しておくことが大切です。
以下では、適応障害の方が働きやすい職場を探すためのポイントについて見ていきましょう。
どのようなストレスに耐えられないのかを整理しよう
適応障害は、発症の原因がストレスであることが明らかにされています。ですが、どのようなストレスをどれくらい受け続けると適応障害を発症するのかは、人によって千差万別です。
そのため、まずは適応障害の原因となったストレスを特定することが大切です。
働くのが怖い・会社に行けないと思う時、「ストレスの原因=仕事」という大雑把な枠組みだけで判断してはいけません。ストレスの原因を可能な限り具体化して、そのストレスが職場内から排除できれば問題なく働けるかについて考えていきましょう。
無理をして高いストレス耐性を身に着ける必要はありませんが、自分が避けた方がよいストレスについて自己理解を深めておくことは、適応障害の治療や再発防止に効果的です。あなたが働きやすい仕事を見つける上でも、重要なポイントになるでしょう。
苦手なストレスが多い仕事は避けるようにしよう
私たちが仕事から受けるストレスは、大きく分けて2つあります。
- 肉体労働や残業による長時間労働などから受ける「体力的なストレス」
- 仕事へのプレッシャーや人間関係などから受ける「精神的なストレス」
こうしたストレスは、いずれも適応障害の原因になりやすいことが知られています。
そのため、あくまでも一般論ではありますが、適応障害の方は以下のような業種を避けた方がよいと言われています。
- 営業職
厳しいノルマが設定されていることが多く、営業先の相手から冷たい態度を取られてしまう事も珍しくないため、適応障害と付き合いながら働くのは厳しい業種です。 - 接客業
お客様の都合に合わせて仕事をするのが基本になるため、仕事の量やペースを自分でコントロールしにくい業種です。時折発生するクレーム対応などもストレスの要因となるでしょう。 - 運送業
過密スケジュールで時間に縛られることが多く、荷物の積み下ろしや長時間の運転など、体力的なストレスが特に多い業種です。
これ以外にも、「商社」「介護」「エンジニア」などの業種は適応障害の方がストレスを感じることが多いと言われています。
仕事を探す際は、先述のように「耐えられないストレス」を明確にすることと合わせて、仕事内容や会社ごとの雇用条件に注目しましょう。
就労支援サービスの利用を検討してみよう
就労支援サービスとは、障がいや病気によって一般企業で働くことが難しい方を対象に、「働く場所の提供」や「就職までの全面的なサポート」を提供している障害福祉サービスです。
就労支援サービスを利用するには、障害者手帳の取得や医師の意見書が必要です。
ただし、通常では6ヶ月以内に症状が改善するとされている適応障害では、障害者手帳の取得が難しいケースが多くあります。このような場合は、就労支援サービスの利用について担当医師と相談した上で、意見書の作成を依頼する必要があります。
適応障害の方が就労支援サービスを利用することには、
- 適応障害であること隠さずに仕事や就職活動ができる
- 適応障害への自己理解を深めながら適切な支援を受けられる
- ストレスをため込まない方法を身に付けられる
など多くのメリットがあります。
適応障害になってしまうと、
「このまま仕事は続けられるかわからない、休職しても復職できるか不安がある」
「仕事を辞めても、今の精神状態では就職なんて無理じゃないか?」
このように将来への生活に大きな不安が生まれてしまいますよね。
そこで、適応障害と診断を受けたら利用できる就労支援サービスがあることを知っておくと、今後の安心にも繋がるでしょう。
また、障がいや病気の有無を問わず「働きたくても働けない」「一般企業では働きづらい」という悩みを抱えた方を対象に就労支援サービスを提供する、「WORK! DIVEWSITY プロジェクト in 岐阜」のような取り組みもスタートしています。
以下では、適応障害の方にオススメの就労支援サービスについて見ていきましょう。
適応障害と付き合いながら一般企業への就職を目指すなら就労移行支援
就労移行支援とは、障がいや病気を抱えつつも一般企業への就職(障がい者雇用枠を含む)を希望している方を対象にして、就職に必要な知識・スキルを身に着ける訓練や就職活動の全面的なサポートを行うサービスです。
昨今では、就労移行支援を利用することで目指せる業界が多様化しており、
- IT系(プログラミング、Webデザインなど)
- CADオペレーター(建築系、機械設計など)
- クリエイター系(動画編集、イラストレーターなど)
- 事務職(一般、経理、人事など)
といった業種を目指すことも可能となっています。
ただし、就労移行支援はあくまでも就職のための訓練を受ける制度であるため、利用に応じて給料などは発生しません。あなた自身の体調によっては、すぐに就職することも難しい点に注意が必要です。
適応障害に配慮ある職場で働きたいなら就労継続支援A型
就労継続支援A型とは、障がいや病気を抱える方を対象に一定の配慮がある職場で働く機会を提供するサービスです。
雇用契約を結ぶため最低賃金以上が保証されており、得られる収入は全国平均で月8万円ほどとなっています。勤務時間は1日4~6時間で週5日勤務という体制で働くことができます。
適応障害と付き合いながら働くことに慣れたいと考えている方は、適切な配慮を求めながら一般就労に近い環境で働ける就労継続支援A型は特にオススメしやすいサービスです。
ただし、就労継続支援A型は「働く場所の提供」を目的に運営されていることが多いため、就労移行支援ほど手厚い就職支援は受けられないことが多い点に注意が必要です。
まとめ
まとめ
- 適応障害とは、ストレスが原因となり「気分の落ち込み」「不眠」「倦怠感」などの症状が現れる精神疾患。うつ病の前段階であると考えられている
- 適応障害は、発症の原因となるストレスから離れると症状が改善することが多い
- 適応障害かもしれないと思った時は、精神科や心療内科を受診して治療を受けることが大切
- 適応障害になった際は、上司などに相談して職場の環境調整を行ってもらうほか、休職するという選択肢もある
- 適応障害の治療や再発防止には、「自分が耐えられないストレス」について理解を深めることが大切
- 適応障害の方は「就労移行支援」や「就労継続支援A型」などの就労支援サービスを利用することができる
適応障害とは、誰の身にも起こる可能性がある身近な精神疾患です。「仕事が怖い・会社に行けない」というような適応障害のサインを感じたら、無理に働き続けないことが大切です。
このように考えて、適応障害の症状はついつい我慢してしまいがちですよね。ですが、その先でうつ病などの重い精神疾患を発症してしまうと、取り返しがつかなくなることも珍しくありません。
適応障害は、うつ病などの他の精神疾患と同様に甘えから発症するものではないことを理解して、適切な対応を取っていきましょう。
あなたがあなたらしく働けることを祈りつつ、この記事の最後とさせていただきます。